善意の波動に目覚めたリュウ

俺より優しい奴に会いに行く

20点以下の女

ある金曜日、Aさんは会社の何人かと退社後に

映画を観に行く約束をしていた。

しかし当日、急遽仕事が増えて行けなくなった。



AさんはBさんという別の仕事仲間を代役を頼み

映画を観に行く約束をしてたグループに合流して

貰おうとした。



正直Bは基本いい人で、仕事もできるし周りからの

評価も高かった。だがAさんとの仲は微妙だった。

Aさんに対してだけ、妙に冷たいところがあった。



そしてAさんは、少しBさんに媚びる算段もあった。



A「俺の代わりに映画を観に行ってくれませんか」

B「あ、でも今手持ちがそんなになくて…」

(※Bさんは大体カードや電子マネー決済)

A「映画代は大丈夫ですよ。急なお願いなんで。」

B「えっ!いいんですか?でも来週金返しますよ」

A「いやいや、急なことで逆に申し訳ないんで」

B「いやいやいや、本当に、来週絶対返します」

A「いやいやいやいや…」

B「いやいやいや返す返す、絶対返すから」

A「(よオォォ〜〜し、言ったなアァァ〜…)」

A「(今【返す】と言って会話を終えたな…!)」

A「わ、わかりました…スミマセン急なお願いで」

B「いえ、ボ●ミアンラプソディ気になってたんで」



その後Bさんは、もう1人別の仕事仲間Cさんを誘い

映画を観に行くグループに合流した。

(※Aさんが約束していたグループをD〜Gさんと

すると、AさんとD〜Gさんは会社の部活的な

感じで定期的に元々映画を観に行っている仲。

だがD〜Gさんとの単純な付き合いの長さなら

AさんよりもBさんやCさんのほうが長い)



AさんはD〜Gさんとの映画仲間グループLINEに

Bさん、Cさんが自分の代わりに合流する旨を

伝えて、残業に戻った。



その後、映画仲間のグループLINEには感想や

Aさんが来れなかったことを嘆く投稿が相次いだ。



〜月曜日〜



Aさんは、あの後Bさんからの連絡が一切

なかったことに一抹の不安を感じながら出社。

(※AさんとBさんは一応LINEを交換している)

Bさんはいつも通り早めに仕事を始めていた。



Aさんは敢えてBさんに気付かれやすいルートで

遠回りするようにして、自分の席に向かった。

いつもより気持ち大きな声でBさんに挨拶もした。



しかし…



B「…おはようございます」

A「(?!!?!!…あ、あれ…)」

A「(目を…合わしてすら、くれない…!!)」



出社2分で絶望の淵に立たされたAさんは

自分の席に着き、PCを立ち上げた。

Aさんはなけなしの脳をフル回転させて

今起きている事態を整理した。



(【】内は人としての配分点)

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●挨拶と同時に映画の感想を述べて、

4DX分の1300円をキッチリ支払う【100点】



●Bさんは忘れてしまって、手持ち用意してなくて

昼休みにATMで金を降ろしてくる【75点】

※…その旨を挨拶の地点で伝える【加点20点】



●Bさんは朝に弱い。もう少し人と話せる元気を

取り戻してからAさんに金を返してくれる【60点】



●Cさんがお金を返してくれる【20点】

※…その旨を挨拶の地点で伝える【加点35点】



●「お金大丈夫です」って言いましたよね

ハッキリとAさんに伝える【10点】



●(「お金大丈夫です」って言いましたよね…)

と暗黙の了解があると信じて何も言わない【0点】



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AさんはBさんを信じて返金を待った。


昼休みも…


定時後も…


なるべくBさんに接近して、Bさんの隣のHさんと

全然関係ない育児の話で10分ぐらい粘ってみた。

たまに目配せするも、BさんはAさんと一度も目を

合わせることなく、自分の携帯に夢中であった。



次の日も、また次の日も…

来週も…Bさんから話しかけられることはなかった。



Aさんの脳内会議で「話に行けばいいじゃん」と

何度か議題に上がるも、「お金はいいです」と

自分が言ってしまった手前引き下がれなく

なってしまったこと、


「発言の撤回」という勝負の世界観の中では

「絶対返します」と言って会話を終えた癖に

ダンマリを決め込んでいるような人間と同じ

ステージに立ちたくないという思いから


Bさんに追及できないでいた。



Aさんはこの事態をだんだん「人生の試練」

として捉えるようになっていた。

男としての心意気を試されているのだと

必死に自分に言い聞かせるようにしていた。



でも違う階の全然別のチームで名前を伏せて

陰口を言うことは、ギリギリ許されるのでは

ないかと思い、まあ仲の良い後輩に好き放題

愚痴を言っていた。

「せめて感想くらいは言っても良いですよね」

8個下の後輩も言っていた。そうだろそうだろう。



…1ヶ月後



会社の忘年会のシーズン、フロア内で

お酒を飲むことが許される日だ。



もうこの頃になると、Aさんは完全に

Bさんを見限っており、一瞬Bさんと

すれ違うも、かるく杯を当てて挨拶する

だけにとどめた…とどめる、つもりだった。




Aさんは最後に、Bさんを人として

試したくなってしまった。いやBさんに

…救いの手を差し伸べようとしたのだ。



A「あの…映画の件、スミマセン。夜急に…」

B「あーーーー!!!スミマセン(食い気味)」

B「Cさんからお金返して貰ってないですよね」



Aさんは、またなけなしの脳をフル回転させた



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【食い気味での返事】Aさんのイメージのすぐ近く

に間違いなく「映画代の返金」があった。



【Cさんから金を】Aさん→Bさんに金の貸し借り

があったのに、無断で又貸しをしている。

TSUTAYAで同じことしてみろ延滞金は消せんぞ。



【返して貰ってないですよね】少なくとも

返させるための計らいに一切の手を貸してくれて

すらいない。CさんにAさんの金で映画行ってる

ことも曖昧に伝えている、Aさんへの礼儀、尊厳

何一つ考慮していない人間の行いそのもの。



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B「スミマセンね〜いや、申し訳ない」

A「いやもう、本当に大丈夫ですので」



こうしてAさんの中でBさんは20点以下の女になった。



そしてAさんは確信した。

Aさんが、過去Bさんに無意識で何かをして

嫌われる原因を作ってしまったのだとしても

自分も嫌いになって良い権利が与えられたと。




何より、1300円はもう返ってくることはないと。

あとCさんも少し嫌いになった。



あとAさんはケチな自分を最後まで抑制できず

試練に打ち勝てなかった自分さえも嫌いになった。





良いお年を。